もえぎの忘備録

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日夏耿之介 詩集

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日夏耿之介全集 第一巻 河出書房新社1973

装画:長谷川潔 装本:杉浦康平・辻修平

 

 * 轉身の頌  * 黒衣聖母

 * 黄眠帖    * 咒 文

 * 拾遺篇 

 

日夏耿之介(1890~1971) 

芥川龍之介萩原朔太郎らと親交。堀口大学佐藤春夫西条八十・画家の長谷川潔石井柏亭・永瀬義郎らと同人誌『仮面』『聖盃』『パンテオン』を発行。

鴎外・上田敏露伴・鏡花の系統をひく。

外国文学研究・翻訳・紹介等に業績。キーツのオードと漢詩の賦の比較研究、早稲田大学青山学院大学で教鞭をとった。

 

象牙の塔に隠棲したかと思われるペダンティック翁は

         夕闇の帷が降り来るや

 黝々とした艶やかな蝙蝠の翅を翩しながら

 

       かぎろふ英吉利湖水地方

       ビザンチン異教神の薄明へ

       露西亜イコンの漆黒の闇へ 

        変幻自在に逍遥する

 この詩人の

          瞬きを忘れた

     開かれた瞳孔に映ずるものは

         玻璃の傀儡たる

       光あるたましひのクライシス

 

      * ゴスィック・ローマン詩體 * 

 

       燻された金属硬質の漢造語 

    超絶技巧たる退嬰と奇古と沈鬱と反撥に

  ニイチェ・キイツ・ブレイク・イエェツ・ダヌンチョ

   オマルカイヨム・ロセッティ・ウァズウォス

ボドレエル・ポオ・シュルレアリズムの自動書記家たちが

   亡霊のごと 混交し たち現れて 憑依する

                *

 「青面美童Ⅰ」(テクストはカッコ内ルビ)

 

夜となれば

仄ぐらい書斎にこの身區(み)臥しよこたへ

『貴い妄語』に倦みなやむ

己が頭脳を癒(いや)そうとのみ

眼瞼(まぶた)かろく閉ぢてあれば

銀光(ぎん)の灯(ひ)ぽっとうす昏みて

陰影(かげ)のごとく 災殃(まがつび)のごとく 礫(つぶて)のごとく

青面(せいめん)の美童 角笛(かく)を吹き

古像のやうにあらはれる   『黒衣聖母』より

              *

「狷介孤高の学匠詩人」も35歳の婚姻前

後の夫人に宛てた手紙(朝日新聞1991.12.12井村君江 日夏耿之介全集復刻記事)では、市井で目される日夏像とは相反する温かで率直な愛に満ち溢れた文面で、瞠目した。

復刻全集編集委員に 作家 池澤夏樹氏 の名も。