もえぎの忘備録

過去関心空間でのキーワードです

横尾龍彦作品集 深夜叢書

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エクリチュール叢書3

シュタイナーに傾倒する横尾氏の現在の作は 形を超えた抽象に赴いた。

    …眞珠母の夢… 

 ミキモトギャラリーで個展をされていた頃

神話をテーマとし 眞珠を多くモチーフにしたこの頃の具象作品に魅かれる。

相澤啓三・春日井建・出口裕弘・高橋巌氏らの賛有り。

 

  緑深き柩の前に佇む夢想 

  この作品『霧のメルヒェン』は、

  ウィーン幻想派の流れか

   はたまたベルギー象徴派

  フェルナン・クノップフ

『わたしは私自身に扉を閉ざす』を想起させる

   

  * 銀座:青木画廊

  3Fを覗くと、十?年ぶりに横尾作品と出逢った

   …摩訶不思議…でもないのだろう

    出逢うべき処で 出逢う…

闇のよぶ声 トラツグミ

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冬には都心の公園の疎林でも見かけることのできる

まあるい目が愛らしい ツグミ科の野鳥

 

頭や尾を振る トラダンス をしながら

林床のミミズや小動物を探す

この鳥が春も終わりに近づくと山間部へ移動し

なんとも不可思議な囀りを聞かせてくれる。

この声をはたして囀りと言ってよいものか

初めて耳にした時

アルヴォ・ペルトタブラ・ラサ

ヴィオリン高音域の音が浮かんだ

 

   これが …鳥の歌…

 

かつては妖怪 鵺(ぬえ) の声とも畏れられた

湿度を含んだ 夜闇からのよび声

この声に魅せられて

数年前から 野鳥観察に開眼し 

日光野鳥研究会 幽霊会員となる

 

 新緑の森の梢の高みから降る

   クロツグミ の歌

複雑で含みのある 世界を異にするこれもまた絶品

 

◎自然観察師匠のHP http://nikkotoday.com/  

 Sounds 7/ 7 1989 トラツグミ(20sec)他

 ◎YouTube  トラツグミとヨタカ https://www.youtube.com/watch?...

葛原妙子歌集

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1974 三一書房 装幀:杉本潤二 扉絵:三岸節子 数年前に古書店で購入

 低い天井の暗い開架書庫を歩きながら

『飛行』 『原牛』 『葡萄木立』 『朱霊』…

河盛好蔵寄贈と押印された葛原妙子の歌集を図書館で見つけたのはいつの日だったか

ぱらぱらと繰るうちに、この女性歌人の言葉選びに慄然とし

書庫の中でその何首かをノートに書き写したことがある。

               *

 黒峠とふ峠ありにし あるひは日本の地図にはあらぬ

 

 他界より眺めてあらばしづかなる的となるべきゆふぐれの水

 

 晩夏光おとろへし夕 酢は立てり一本の壜の中にて

 

 灰色のゆふべうつくしき言葉あり

              「秘かなる不具の中に身を秘す」

 

 薄明をわれは戀ひつ白き蝶 白き窓かげに動かざるとき

 

 川底に沈める大き星の群 魚精は狭霧のごとく亡びぬ

 

 凍るみづうみしづまりし夕 われは手を伸べ爪を切れるに

 

 美しき球の透視をゆめむべく あぢさゐの花あまた咲きたり

               *

 「短歌研究」「日本短歌」の編集者として青年期を過ごした中井英夫に 現代の魔女 と絶賛される。

 …彼女は世のつねびとのように

  率直な嘆きや苦しみを述べようとはせず、

  代わりに傷のひとつひとつに金粉銀粉をきらめかせ

  滴る血を緑色に変じて見せさえした。

  それが彼女の方法であった。  『中井英夫短歌論集』

 

 塚本邦雄 『百珠百華 葛原妙子の宇宙』

 「…葛原妙子の好む主題、歌の飛翔する次元の、

  幅の廣さ、底の深さ、振幅の激しさ

  私はそれに随伴するため まさに奔命に憊れた…」

 

       見えざるもの 聴こえざるもの 

          球形への畏怖

      虚無を見据える幻視者のまなざし

         それはまた翻って 

    うつせみの現実を穿つまなざしでもあろう。      

  

随筆集『孤宴』小沢書店 では戦中の疎開の話などが興味深い。

日夏耿之介 詩集

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日夏耿之介全集 第一巻 河出書房新社1973

装画:長谷川潔 装本:杉浦康平・辻修平

 

 * 轉身の頌  * 黒衣聖母

 * 黄眠帖    * 咒 文

 * 拾遺篇 

 

日夏耿之介(1890~1971) 

芥川龍之介萩原朔太郎らと親交。堀口大学佐藤春夫西条八十・画家の長谷川潔石井柏亭・永瀬義郎らと同人誌『仮面』『聖盃』『パンテオン』を発行。

鴎外・上田敏露伴・鏡花の系統をひく。

外国文学研究・翻訳・紹介等に業績。キーツのオードと漢詩の賦の比較研究、早稲田大学青山学院大学で教鞭をとった。

 

象牙の塔に隠棲したかと思われるペダンティック翁は

         夕闇の帷が降り来るや

 黝々とした艶やかな蝙蝠の翅を翩しながら

 

       かぎろふ英吉利湖水地方

       ビザンチン異教神の薄明へ

       露西亜イコンの漆黒の闇へ 

        変幻自在に逍遥する

 この詩人の

          瞬きを忘れた

     開かれた瞳孔に映ずるものは

         玻璃の傀儡たる

       光あるたましひのクライシス

 

      * ゴスィック・ローマン詩體 * 

 

       燻された金属硬質の漢造語 

    超絶技巧たる退嬰と奇古と沈鬱と反撥に

  ニイチェ・キイツ・ブレイク・イエェツ・ダヌンチョ

   オマルカイヨム・ロセッティ・ウァズウォス

ボドレエル・ポオ・シュルレアリズムの自動書記家たちが

   亡霊のごと 混交し たち現れて 憑依する

                *

 「青面美童Ⅰ」(テクストはカッコ内ルビ)

 

夜となれば

仄ぐらい書斎にこの身區(み)臥しよこたへ

『貴い妄語』に倦みなやむ

己が頭脳を癒(いや)そうとのみ

眼瞼(まぶた)かろく閉ぢてあれば

銀光(ぎん)の灯(ひ)ぽっとうす昏みて

陰影(かげ)のごとく 災殃(まがつび)のごとく 礫(つぶて)のごとく

青面(せいめん)の美童 角笛(かく)を吹き

古像のやうにあらはれる   『黒衣聖母』より

              *

「狷介孤高の学匠詩人」も35歳の婚姻前

後の夫人に宛てた手紙(朝日新聞1991.12.12井村君江 日夏耿之介全集復刻記事)では、市井で目される日夏像とは相反する温かで率直な愛に満ち溢れた文面で、瞠目した。

復刻全集編集委員に 作家 池澤夏樹氏 の名も。

 

復刻版 ジュルナール律 冬花社

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1964年12月創刊(深作光貞編・7冊) この短歌小誌の存在は、国文社『村木道彦歌集』にて知っていた。昨年池袋リブロ 詩の専門書店「ぽえむ ぱろうる」にて復刻版(7冊+別冊)を見つける。

 

「ジュルナール律はこの歪められた歌壇に反発し、闘う者の砦です。またぞろ歌人たちを長幼の序に整列させ歌壇を文学とはまるで無縁な小部落に戻そうとする旧勢力の狙撃台です。」

学内闘争烈しき時代の

若者たちの三十一文字のシュプレヒコールが逆巻く

 

「武器としての紙礫は機能した」冨士田元彦

 

40年後の現在 歌 は果たして何に変容するのか?

福島泰樹塚本邦雄佐佐木幸綱寺山修司ほか

 

めをほそめみるものなべてあやうきか

          あやうし緋色の一脚の椅子

 

ましろにはあらぬ縫帯

    ひのくれを小指のかたちのままにころがる

 

                  村木道彦

 

かくれんぼの鬼とかれざるまま老いて

            誰をさがしにくる村祭り

 

おとうとの義肢作らむと伐りてきし

             どの桜木も桜のにほひ

 

                  寺山修司