『 動植綵絵 』 伊藤若冲
8×10 大判退色気味のカラーポジフィルム
ここに収められていた二幅ずつの絵画 多くの鶏、、
個人的趣向で鶏が大嫌いな者にとって
それは醜悪と憎悪のきわみ
ぬばたまに黒耀変化する羽
鱗状肉塊トサカにうづもれた妖しい眼光
するどく鋭角に突き出る鱗状蹴爪
不倶戴天の敵
愚鈍な軍鶏・雌雄鶏の画像が
今 まさに生きて飛び出さんばかりに活写され尽くしているこの恐怖を
一体 誰が理解できよう、、、
たかが 写真の中の絵 に過ぎないというのに
眼をそむけ 忘却の彼方に遺棄したくとも
若冲絹本の二次元に取り込まれたいきものたちは
その画像の中で、いきいきと今も生き続けているという恐怖
御物(天皇の持ち物 宮内庁管理)という理由から一般公開は難しいものとされ
生きている裡に観られればいい、、、と半ば諦めかけていた
その 『 動植綵絵 』 30幅 が、1989年(平成元年)に国へ寄贈
1999年(平成11)~2004年(平成16)にかけての修復を終えて
(2000年 京都国立博物館で公開)
若冲の富裕な環境から得た高価な顔料・絹本画布は
贅沢な裏彩色にも助けられ保存状態の良さも秀逸
修復に伴う顔料の化学的分析報告も興味深い
会 期 平成18年3月25日(土)~9月10日(日)
第1期:3月25日(土)~4月23日(日)
第2期:4月29日(土・祝)~5月28日(日)
第3期:6月3日(土)~7月2日(日)
第4期:7月8日(土)~8月6日(日)
第5期:8月12日(土)~9月10日(日)
休館日 毎週月曜日・金曜日
7月17日(月・祝)は開館,翌18日(火)を休館
http://www.kunaicho.go.jp/11/...
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京都大店の裕福な青物問屋の嫡男に生まれた若冲は、数え年23歳で家督を継ぐも 唯一の絵道楽が高じて、40歳にして次弟に家督を譲り楽隠居の身に。
商人に向かない性癖、隠遁癖・独身癖は、30代の若冲に中国:宋・元・明・清の花鳥画の模写を通じて細密な写実技巧を習得させる。
30代半ばで得た運命的知遇
知的パトロンとなった相国寺の三歳年少の僧:大典との出逢いが齎したもの
『宣和画譜』(1120 北宋末の皇帝:徽宗の絵画コレクションの画家別伝記)が翻案とされる奥義は
造化ヲ奪ッテ精神ヲ移ス
造化の秘密を奪う為には「物」を徹底的に観察し尽す客観的描写力と
他方、画家の精神を反映させる主観の意想が主要であること。「意」とは「恣意」に他ならないか。
加えて老荘思想、朱子学「格物到知」(一草木一昆虫の微に至るまで、各亦理有り)
若冲40歳~50歳に至る約10年の歳月をかけて完成した『動植綵絵』の完成記念墓とも思える自らの寿蔵(生前墓)に大典が記した詳細な銘文には
ミズカラ物ニツキテ筆ヲナメンニハシカザルナリ
物カ物カ 吾レ何ヲカ執ラン(略)
ソノ貌ヲツクシテ神ヲ会シ、心得テ手応ズ(略)
骨力精錬のタクミ(略)
と、数十羽の鶏を実際に窓下に飼育し、観察し、写生すること永年
動植物・昆虫・魚へと対象を広げながら
緻密な筆致・装飾的構図・彩色・諧謔味
それら全てが、若冲の独自性と技巧の練磨だと絶賛。
物 を見据える まなざし となるか
見据えられた 物自体 になるか
「独楽窩」と名づけられた若冲アトリエ小宇宙からの狂気が
本物を前にして 再びこの命題を突きつける。
◎ 参考文献
季刊 みづゑ1984 №933 美術出版社
(江戸のグラン・エキセントリック 辻惟雄)